生き物のようにうねり、波打つ2本のロープ。その狭間を縦横無尽に跳び回る、しなやかな体たち。ステレオから流れる音楽のビートさえもてあそぶようにして、彼らはどこまでも自由にステップを踏み、宙を回転し、そして観る人を釘付けにする。ダブルダッチパフォーマンスグループ「Matsuri」。まさにお祭り三昧な夏のバンクーバーに挑戦すべく、気鋭の3人が日本からやって来た。

祭

ライバル同士がひとつに

2人のターナー(回し手)が回す2本のロープの中を、ジャンパー(跳び手)が多彩な技を交えながら跳ぶ競技、ダブルダッチ。スピード、タイミング、アクロバット、そして音楽との一体感。様々な要素が凝縮されたこのスポーツと出逢った時、Misaki、Yu-to、Taro の3人は、それぞれ別の場所で、しかし同じように強く思った「これだ!」。

関東の大学に通うMisaki とYu-to、関西の大学に通うTaro は、当初別のダブルダッチサークルに所属するライバル同士。大会などで顔を合わせるうちに自然と仲良くなり、互いに切磋琢磨し合う仲だった。3人とも、毎日のようにパフォーマンスに夢中になり、やがては日本各地の大会はもちろん、NY や香港などの世界大会でもFirst Prize 各賞を受賞するほどに成長した。

若いエネルギーと才能を爆発させたパフォーマーたちも、卒業してからは一般の企業に就職を決め、社会人としての生活が始まった。新しい、しかし代わり映えしない日々の中で、3人の胸の内は複雑だった。「今しかできないことが、もっとあるはず…」。中でも一番歯がゆい思いに駆られるのは、後輩たちのイベントを見に行く時。「自分だったら、もっとできるのに! まだ体が動くのに!」。そんな思いを抱え、偶然同じタイミングで仕事を辞めたMisakiとTaro。さらに偶然が重なり、オーストラリアでバスキング(ストリートで行われるパフォーマンス)をしている同じ先輩に相談を持ちかけたことで、お互いの状況を知ることになる。一足遅れて仕事を辞めたYu-to に声をかけ、3 人で海外に挑戦することを決めた。行き先はバンクーバー。体の感覚を取り戻すために練習を重ね、朝から晩まで働いて資金を稼いだ。一握りの不安と、それを打ち消してしまうほど大きな興奮と共に。

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ダウンタウンでのストリートにて。アクロバティックな動きに多くの通行人が足を止める

新しい街、新しい出逢い

バンクーバーに降り立ったのは2012年5 月。美しく晴れ渡る青空が3人を出迎えてくれた。が、その後は雨の洗礼を受け、ストリートで稼ぐことが難しい天候が3 週間続くことになる。それでも晴れ間を見つけて地道にパフォーマンスを続け、少しずつファンを増やしていった。時にはイベントオーガナイザーから声がかかり、様々なイベントへの出演をアレンジしてくれることも。新しいステージがまた別の人との出逢いに繋がり、3人の活躍の場は急速に広がっていく。「人との出逢いにはすごく助けられました。ストリートの稼ぎだけで暮らしていくものだと思っていたので…。本当に感謝しています」。

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Granville Island でのパフォーマンス。子どもたちも夢中で見入っている

客層に合わせてパフォーマンスのスタイルにも変化をつける。観光客が多いGranville Island では、たっぷり見せられる10 分間のショー。駅前などのストリートでは、短い時間で通行人を惹きつける3 分間のショー。どれも3人の個性が引き立つよう、それぞれの見せ場をバランスよく組み込んでいる。女の子らしい動きと大胆さを兼ね備えたMisaki、ダイナミックなアクロバットが 特徴のYu-to、そしてストリートダンスのスピード感とクールな動 きが魅力のTaro。2本の縄を軽々とくぐり抜けながら、自由自 在に躍動する彼らの身体を目の当たりにすると、人間本来が持 つ可能性の凄さを見せつけられる。そのエネルギーに触れて、 人は笑顔になるのだろう。「お客さんにはとにかく楽しんでもらう のが一番! そして1人でもたくさんの人にダブルダッチを知って ほしい」と言うMisaki。「人が喜んでくれると、こっちのテンショ ンも上がります。拍手や歓声が聞こえると、つい声や動きが大き くなりますね」と語るTaro。演技中の観客とのコミュニケーショ ンが、パフォーマンスに一層力を与えるのだ。

一方で、「一番難しいのは、息を合わせること」だという。高 さ、位置、タイミング、一瞬でも誰かの集中力が切れるとミスに 繋がる。音楽の波に乗りながらも常に冷静さをキープし、自分の 動きだけでなく相手の動きにも気を配る。「完全なチームプレー ですね。仲が悪かったらできません。どんなに技がすごい人でも、 人間性が合わないと組みたくない」と笑うのはYu-to。誰がリー ダーということはなく、3人が対等な立場で声を掛け合い、指摘 し合う。「言いたいことがあったら必ず言える環境作りが大事です。 本当に信頼し合っていないと、難しいですよね」。

“祭の時” は過ぎても

現在、昼間はGranville Island や駅前などのストリート、夜はリッチモンドのナイトマーケット、そして週末は各フェスティバル でのステージと、ほぼ休みなしで活動しているMatsuri。大勢の 観客や他のバスカーたちとの交流に刺激を受けながら、自らの パフォーマンスだけで生活するという濃厚な毎日は、8 月の半ば まで続く。「体力的にはすごくキツいですが、自分の好きなこと をこれだけ自由にやれて、本当に楽しくて仕方ない」と3 人は揃っ て言う。

日本に帰ってからは、それぞれの場所でまた新しい夢に向かう 日々が始まる。ダブルダッチの楽しさを子どもたちに教えたいと いうMisaki、所属していたダブルダッチのグループに戻り、それ を仕事にしたいと考えるTaro、そして、もう一度大会に出て勝ち たい、と語るYu-to。「Matsuri としてまた一緒にやるかどうかは わからないけど、ダブルダッチをやっている限り、離れることは ない。ずっと切れない関係です、きっと」。

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光るロープを使っての撮影。イベントで知り合ったフォトグラファーのスタジオにて

2012 年夏、バンクーバーのために結成されたMatsuri。彼らが多くの人たちを惹きつける理由は、卓越したパフォーマンスだ けではない。一人ひとりが夢に向かって全力で突き進み、そして 全身で “今この瞬間” を楽しんでいるからこそ、観る人をこんな にもHappy にしてくれるのだ。

※この記事は2012年 7月下旬号「Oops!」に掲載されたものです

 

祭

日本国内、世界各地の大会で数々の受賞歴を誇る Misaki・Yu-to・Taro の3人が結成したダブルダッチパフォーマンスグループ。2012 年5 月にバンクーバーに上陸、ストリートやイベントなどで人気を集めている。https://www.facebook.com/matsuri.dd

About The Author

Star☆tS 編集長 - 言葉の魔術師

兵庫県明石市生まれ。言葉のお仕事師。夢見がちなこども時代、激音と妄想まみれな思春期、販売・事務職など迷走OL時代を経て、大失恋をきっかけに晴れてコピーライターに。2007年、サンタモニカへ移住。2010年、バンクーバーへ移住。ブランディング、コピーライティング、インタビュー記事執筆などの他、絵本、小説、エッセイなど、アーティストとコラボした作品も創作中。最近ぐっときた言葉は「愛は光の速度の二乗」。 カナダ留学エージェンシー カウンセラー

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