「いいな」と感じた瞬間を、その時の想いごと閉じ込めて、1 枚に凝縮させる。写真は、ファインダー越しに描く手紙。見る人は、写し出された風景を味わい、共有する。10 代の頃から、そんな写真を撮り続けてきた奈々が、バンクーバーで見つけたことは…。

 

撮りたい、伝えたい、という想いから始まって

カメラに興味を持ったきっかけは、中学生の頃にとあるウェブサイトで見た1枚の写真。窓ガラスに滴る雨の雫、どこにでもある日常が、撮る人の視線によって美しく切り撮られていた。「何てことない風景なのに、こんなにかっこ良く撮れるんだ…」。高校に入学し、写真部に入った。部員は2人。教えてくれる先輩も先生もいない中、暗室や機材を何度もテストした。手探りで学びながら、奈々は写真を撮ることの面白さを確実に感じていた。卒業後は写真の専門学校へ。年齢も考え方も様々な個性的な面々だったが、みな「写真をやりたい」という想いは共通していた。仲間たちから刺激を受けながら、写真の基礎を学ぶ日々。人生初のライフワークに出逢ったのは1年目の夏、友人に誘われて訪れた沖縄の伊良部島でのことだった。雄大な自然のエネルギーに満ちた離島では、空気そのものが都市とは全く違っていた。そして何よりも、人々の優しさに驚いた。みんなが気さくに話しかけてくれ、時には食事に呼ばれることもあった。風景を撮り、人を撮り、奈々はこの島の温かさと美しさを夢中になって切り撮った。写真を撮るため何度も島を訪れる中、沖縄の歴史を知るために大阪市大正区にある資料館にも足を運んだ。戦争、基地問題、本土との軋轢。この美しい島に、今も続く苦しみがあることを改めて知った。「自分が写真を撮ることで、1人でも多くの人に沖縄のことを知ってほしい」。そんな想いを胸に撮り続けた写真は、奈々の卒業制作となった。

第一線で学んだ、プロフェッショナルの流儀

専門学校を卒業後、東京のスタジオに就職が決まり、上京した。華やかな業界だと思われがちだが、実際は上下関係も厳しく、気遣い・体力・精神力を常に最大限必要とされる厳しい現場。その一方で、毎日憧れのモデルやカメラマンの仕事を生で見られる貴重な日々でもあった。第一線のファッション戦線、最新鋭のカメラの技術、お金を払っても得られない体験を、お金を貰いながら体感している。中でも、プロのフォトグラファーの気遣いの仕方には大きな感銘を受けた。写真に集中しながらも場をしきり、スタイリスト、メイク、アシスタント、そこにいるすべての人のムードを盛り上げるために細かなところまで常に気を配る。その場にいる全員の力で写真を撮っている、そんな気持ちにさせてくれる仕事っぷりは刺激的だった。勤務後はみなでセットを組み、ライトを試したりと練習に励み、休みの日にはアシスタント仲間と集まってテーマを決め、ポートフォリオ撮影。写真と真っ向から向き合った2年半はあっという間に過ぎた。

人と出逢い、自分と出逢えたバンクーバー

「将来のためにも写真のためにも、海外で英語を勉強したい」という想いを叶えるため、バンクーバーへ渡ったのは2012 年1 月。ESL に通う一方、サルサやジャンベなどアクティビティを通じて色んな人々との出逢いがあった。ビジネスMeet Up で知り合った人に撮影を依頼され、フリーランスとして初めての撮影もこなした。機材のレンタル、担当者とのやり取りなど、すべてを英語で、しかも自分1人で進めていく。「もしもうまくいかなかったら…」。常に緊張はあったが、何とかクライアントの希望に沿う結果を出せた。1 個1 個確実に、着実にこなすこと。一切のミスは許されない。それがプロの仕事なのだと改めて感じた体験だった。そして、今取り組んでいるのが友人と立ち上げたcookbook プロジェクト。色々な国の代表料理を試作してレシピを作り、撮影をする。料理のプレートのそばには、その国の衣装をまとった手作りのパペット。インターナショナルな食文化を1 冊にまとめ、日本、北米、ヨーロッパでの出版を考えている。“人種のモザイク”であるバンクーバーならではの企画だ。また、最近はカメラの基礎知識を教えるワークショップも企画した。カメラを通して世界を広げ、写し出してきた奈々。振り返って想うのは、10 代の頃、PCのスクリーンで見た雨の雫。あの時のようにどこかで誰かがまた、彼女の写真越しに、世界の美しさを感じ取っているのかもしれない。

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スタジオ勤務時代の作品。モデル、ヘアメイク、スタイリングなどほぼ自分でコーディネートしていた

Interview

— cookbook について教えてくださいますか?

奈々:ベルギー人の友人Sarah とは、私が写真、彼女がクイックスケッチ、といった感じで2 人でストリートスナップをしたり、会う度に「何か2人でやりたいね」と話していたんです。どちらも料理が好きだったので、「cookbook を作ろう、料理の写真だけじゃなくて、パペットも作ろう!」とテーマが決まりました。例えば日本だと、おにぎり+着物を着た鶴。基本的には子ども向けのレシピブックですが、スパイスも控えめだけどちゃんと使っています。親子で一緒に料理しながら、知らない国の味や文化を発見してもらえたらなと思っています。

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cookbook に使用予定の写真。パペットのKata が世界の料理を紹介してくれる

— 料理の写真にはもともと興味があったのですか?

奈々:東京のスタジオを辞めた後、料理の撮影をするスタジオでお手伝いをする機会があったんです。そこではライティングをせず、自然光で撮るんですが、それがすごくかっこ良くて。影の作り方やスタイリングなど、ファッションの撮影に通じるものを感じました。また、フードスタイリストさんがちょっとスプーンの角度を変えるだけで、全く見え方が違ったり。あまりのレベルの高さに、今まで気付かなかったことをたくさん学び、大きな影響を受けました。

— バンクーバーでの生活はどうですか?

奈々:学校では色んな国籍の人がいたんですが、授業中に同じところで笑ったりして、「みんな同じことがおかしいんだ!」と新鮮でした。日本では「日本人・外国人」と勝手に壁を作っていたけど、みんな同じ人間なんだ、って。英語が完璧でなくても、深い話もするし、喧嘩もする。ちゃんと感情も伝え合って、感覚がすごく広がった気がします。

— 日本に帰国してから、やりたいことはありますか?

奈々:食に興味があるので、田舎のおばあちゃんの農家を手伝いながら、日本の料理や野菜について学んでみたいですね。カナダの健康食や、インドのアーユルヴェーダにも、日本の食材が体に良いものとして紹介されたりしているので、北米の食材と日本の食材を組み合わせてレシピを作るのも面白そう。

— 奈々さんにとって、写真とは?

奈々:写真を撮ることで、世界がすごく広がりました。例えば街で素敵な人を見つけたとしても、普通ならそのまますれ違うだけ。「カメラやってるんだけど、撮ってもいい?」って言えばコミュニケーションも出逢いも広がる。カメラをツールにして、色んなことにチャレンジしたり、人と出逢ったりできる、大切なツールです。

— やりたいことを探している人、これをやってみたい!と思っている人にメッセージを…。

奈々:自分で興味のあることや、誰かが面白いよと言っていることは、とりあえずやってみたらいいと思います。自分が楽しい!と思えば、とにかくその流れに乗ること。楽しい時は、いいものを魅きつける。だからいつもポジティブでいることが大切だと思います。あと、「これをやりたい!」っていう想いを周囲のみんなに宣言する。そうすると情報が自然と集まって来て、いいゴールに繋がっていくはずだから。

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カメラワークショップの講師として。作成したスライドの前で

※この記事は2013年 1月下旬号「Oops!」に掲載されたものです

 

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武井 奈々(たけい なな)

1986 年7 月2 日生

大阪府出身

オリジナルのレシピブログ(英語・日本語)
http://foodiefromjapan.blogspot.jp/

今までに撮影した写真作品を掲載

http://nanatakei.jimdo.com/

cookbook “Kata’s Cook Book” のホームページ

http://katascookbook.wordpress.com/

About The Author

Star☆tS 編集長 - 言葉の魔術師

兵庫県明石市生まれ。言葉のお仕事師。夢見がちなこども時代、激音と妄想まみれな思春期、販売・事務職など迷走OL時代を経て、大失恋をきっかけに晴れてコピーライターに。2007年、サンタモニカへ移住。2010年、バンクーバーへ移住。ブランディング、コピーライティング、インタビュー記事執筆などの他、絵本、小説、エッセイなど、アーティストとコラボした作品も創作中。最近ぐっときた言葉は「愛は光の速度の二乗」。 カナダ留学エージェンシー カウンセラー

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