ホッケーの聖地カナダへ、19歳の朋紀は単身で乗り込んだ。思うように言葉も通じない中、しかし誰にも負けないその強い意志は、多くの人の心を動かしてきた。支えてくれたすべての人の想いと共に、彼は氷の上に立つ。ゴールを守ることで、その想いに応えようと。

 

“偶然”という名の“運命”によって出逢ったホッケー

ホッケーを始めたのは“偶然”だった。「何でもいいからスポーツをやりたい!」という朋紀に、父親はたまたま観ていたホッケーを勧めた。初めてリンクの上に立った時のことはあまり覚えていない。立つことだけで精一杯、まったく滑れもしなかった。それがいつのまにか、縦横無尽に氷の上を駆けまわるプレイヤーの一人になっていた。ゴーリーになったのは練習を始めてから2年目のこと。チームの中で一人だけ違う防具を着ているのを見て「あれ、目立つから俺がやりたい!」と名乗り出たのが始まりだった。気軽な気持ちからスタートしたゴーリーとしての物語が、やがて海外で幕を開けるとは、その頃には思ってもみなかった。

「どこまでやれるか」という想いを胸にカナダへ

小学校から中学校までは地域のクラブチームで練習に励み、高校からは電車に揺られて50分、ホッケー部のある学校へ通った。高校二年生の頃、本場カナダでのホッケーキャンプに参加。初めての海外で、世界各地から集まってきた強者とのトレーニング。リンクの上での真剣勝負を通じて、言葉を超えて心が通い合うのを感じた。濃密な三週間はまたたく間に過ぎたが、朋紀は様々な想いにかられていた。ホッケーのテクニックにはひとつひとつに意味や深みがあり、そのすべてが英語で発信される。そして何よりも、カナダではホッケーをプレーする人も観る人も、全身全霊で楽しんでいる…。「自分は、どこまでできるのか」。海外で挑戦してみたいという気持ちが強く胸に残った。

高校卒業後、「本場のホッケーに挑戦してみたい」と意を決し、カナダに渡った朋紀。英語学校に通い語学力を磨きながら、ホッケーへの道を模索した。コネクションはゼロ。やりたいという想いだけを武器に、体当たりでいくつものアイスリンクを回った。「キーパーいらない?」とつたない英語で話しかけ、電話番号を渡して歩く。そんな中、運良くゴーリースクールの経営者に出逢うことができた。おぼつかない英語で懸命に話す姿に心を打たれたのか、彼はチームの監督やキャンプを紹介してくれた。縁が縁を繋ぐ中、ラングレーにあるTrinity Western Universityに合格、トライアウトにも通過し、大学のホッケーチーム『Trinity Western Spartans』への入団を果たした。

感謝と感動に満ちた初試合。そして未来へ

シーズン中は、クラス後にほぼ毎日練習と試合に励む。加えて自主練習やウェイトトレーニング、休む暇などない。それでもがんばってこれたのは、背中を押してくれる仲間達の存在が大きい。「英語ができないながらもひたすら練習にはげんでいたら、チームメイト達が認めてくれるようになりました。コーチも『俺がプロにしてやる』と言ってくれて」。三番手のゴーリーである朋紀は試合中はいつもベンチ入りだったが、チームメイト達はいつも「お前は一番がんばっている。絶対に試合に出るべきだ」と言ってくれた。そしてシーズン最後の試合の前、レギュラーのゴーリー自らがコーチに電話をかけ、こう掛け合ったという。「朋紀がプレーするべきだ」。初めての試合、カナダ国歌を歌いながら、様々な想いに胸が詰まった。今までにない興奮の最中、ゲームに臨む。シュートを一本止めるたび、仲間や観客が元気づけてくれる。初試合とは思えないほど、学んできた技のすべてを発揮できた。何よりも、最高に楽しかった。「試合が終わった時、「ベンチではなく、ここにいたい、ずっと氷の上にいたい!」と心から思いました」。どれほど自分がホッケーを好きなのか、再確認した瞬間だった。

現在、オフシーズン中の朋紀は9月のトライアウトに向けてトレーニングに励んでいる。週末はゴーリースクールで講師としても活躍、小さなプレイヤー達からも刺激を受ける毎日だ。「自分一人で夢を追うのはすごくつらい。だけど多くの人に勇気づけられ、助けられてここまでこれた。だから自分も、誰かの背中を押してあげられる人になりたい」。夢はプロになること。しかし今は目の前のリーグに集中して、このリーグでのチャンピオンを勝ち獲りたい。そして、皆の期待に応えたい。「今が、人生で一番楽しい」。そう語る朋紀の笑顔は、彼を支えてきたすべての人への感謝で輝いている。

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防具に身を包んだ朋紀さん。重さはなんと約15kgほどもあるという

Interview

— 単身でカナダに乗り込んだ当初のことを教えていただけますか?

朋紀:コネも何もなかったものの、「やりたい!」という気持ちだけはあったので、とにかく体当たりでした。それでも色んな人の助けを得て、ここまでこれました。自分で築いた繫がりは、「この人は自分のために動いてくれている」という信頼、絆がある。だから自分もがんばってこの人に返そう、とギブアンドテイクの関係になります。それはホッケーだけではなく、車や仕事、すべてにおいて。例えばキッツにある『ひとえ寿司』の大将は、たまたまご自身もホッケーをやっていらしたということで、様々な面でサポートをして下さいました。そんな風に、誰一人欠けても今の自分はないし、本当に感謝しています。

— ゴーリーとしてプレーする中で、どんなことに気を配っていますか?

朋紀:相手がゴールに向かう時だけではなく、全ての瞬間の先の先を読んでいます。パス、シュート、ドリブル、どの選択肢が次の選択に繫がるか、常に計算して自分の動きを決めます。シュートされる瞬間はパックしか見ていません。スティックの角度、ブレードの向き、体の中心がどこにあるかを瞬時にキャッチして、「どこに来るか」を予測し、ポジショニングの駆け引きをする。一瞬も気を抜けません。

— 朋紀さんにとって、ゴーリーの魅力は何ですか?

朋紀:ゴーリーは、実は最もゲームをコントロールできるポジションなんです。極端な話、シュートさえ全部止めればチームに負けはない。落ち着いてゲーム全体を見て、なおかつ一番目立てるので(笑)、自分に向いていると思います。

— ゴール前のポジションは、相当の緊迫感、責任感があるのでは?

朋紀:初心者が多かった高校の時のチームでは「俺が止めなきゃ」というプレッシャーがありました。でも今は、経験豊富なチームメイト達と一緒にやっている。もし失点してしまったとしても「こいつらが絶対に取り返してくれる」と信頼しているから、プレッシャーはないですね。そんなチームメイトは家族のようなものです。

— 子供達にもホッケーを教えているとのことですが

朋紀:ゴーリースクールのオーナーと仲良くなったので、インストラクターとして時々雇ってもらっています。教えるということは、プレーするのと全く違うので、学ぶことが多いですね。カナダは日本と違って、子供達を褒めて伸ばします。厳しい練習の中でも楽しい方が絶対にいい、という想いがあるので、いい所を見つけて褒めてあげながら、笑いながら練習に取り組む。僕自身も多くの人にそうやって自信をつけてもらったので、自分も次の世代の背中を押してあげられるような、かっこいい大人になりたいと思っています。

— 日本人のホッケープレイヤーというのは、ここでは珍しいのでは?

朋紀:アスレチック部門で、50年ぶりの日本人だそうです。ラングレーは小さな町なので「お前がホッケーをやっているあの日本人か!」と声をかけられたり、地元の人も応援してくれます。カナダはホッケーが国技なので、年齢を問わず色んな人と繋がれることが本当にありがたいですね。また、日本でホッケーをやっている人で、海外に興味があるなら、是非こっちに誘ってあげたい。ホッケープレイヤーに対する環境が全く違うので、まず自分がここでがんばって、そんな人達のモチベーションを上げていきたいです。

— 夢を探している人、夢に向かってがんばっている人に伝えたいことは?

朋紀:『意思を持って行動すること』が何よりも大切だと思います。僕自身、迷った時はまず自分の意思を再確認し、遠回りであったとしても、信念に従って行動するようにしています。強い意志を持つほど、大きな原動力になるし、また誰かに背中を押してもらうことで、さらにそれは強くなる。自分を本気で応援してくれる大人、つまりその人自身が強い意志と信念でもって相手の背中を心から押せる人、そんな大人に出逢うことも大事だと感じています。一人じゃないからこそ、夢を追うのは楽しい、楽しくて仕方がない。そう思います。

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『Trinity Western Spartans』の仲間と共に。チームメイトは家族のような存在だ

※この記事は2013年 5月下旬号「Oops!」に掲載されたものです

 

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吉澤朋紀(よしざわともき)

生年月日:1991年5月22日

千葉県出身

朋紀さんが所属するチーム

https://twu.ca/athletics/hockey/

About The Author

Star☆tS 編集長 - 言葉の魔術師

兵庫県明石市生まれ。言葉のお仕事師。夢見がちなこども時代、激音と妄想まみれな思春期、販売・事務職など迷走OL時代を経て、大失恋をきっかけに晴れてコピーライターに。2007年、サンタモニカへ移住。2010年、バンクーバーへ移住。ブランディング、コピーライティング、インタビュー記事執筆などの他、絵本、小説、エッセイなど、アーティストとコラボした作品も創作中。最近ぐっときた言葉は「愛は光の速度の二乗」。 カナダ留学エージェンシー カウンセラー

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